角川文庫から縄田一男編で横溝正史の『人形佐七捕物帳傑作選』が出ました。
背表紙が、従来の横溝ミステリと同じ黒色なのが嬉しいところ。
表紙絵は、杉本一文ではなく、卯月みゆきという人。
捕物帳なので、ま、いっか。笑
ご存じ人形佐七とは、
〈年のころまだ二十一、二、色の白い、役者のようにいい男〉で、〈神田お玉が池あたりで、親の代から御用をつとめている身分〉。
〈先代の伝次というのは〉、〈腕利きの岡っ引きだが、せがれの佐七はあまり男振りがいいところから、とにかく身が持てず、人形佐七と娘たちからワイワイといわれる〉くらいのイケメン。
その佐七の最初の事件がこの「羽子板娘」(原題は「羽子板三人娘」)。
今ではお正月に羽根突きをする子供もいなくなったが、江戸時代の羽根突きの羽子板(=ラケット)には押絵がついていて、その絵に江戸町人の中で評判の美人娘の似顔絵を描いたそうだ。
その「羽子板娘」にもなった江戸の三小町(=三美人)である、小石川音羽の小料理屋辰源の娘お蝶、神田お玉が池の紅屋の娘お組、深川境内の水茶屋のお蓮が、次々と殺されて、それぞれの娘の描かれた羽子板の押絵の首がちょん切られてしまうという事件が起こる。
町の美人の似顔絵が羽子板になる、というのは、私たちの子供の頃でいえば「ブロマイド」。少し前で言えば、読者モデルみたいな感じだろうか。
ネットの時代=現在でいえばなんだろう?
とにかくAKBなりNMBなりに入るほどの美人の女の子連続殺人事件。
それを20代前半のイケメン岡っ引き(=刑事?)が活躍して事件の謎を解くお話。
ドラマにして、イケメン俳優と可愛いアイドルの女の子を使えば、視聴率がとれないことはないんじゃないの? と思う。
伏線が後からどんどん後出しで出てくるあたりは、捕物帳だから(?)ご愛嬌として、連続殺人事件(未遂も含む)の謎解き自体は、今の新本格とも通底するものがあって(分類的には「後付」というやつ)、読みごたえは十分。
しっかり想像力を働かして読めば、面白いこと間違いなし。
初出は、昭和13年1月の『講談雑誌』。
作者自身が、〈アガサ・クリスティの『ABC殺人事件』のトリックを借用〉と言明しているようだが、縄田一男は〈新しい捕物帳の連載を始めるに当たってその第一作の構成を海外の本格ミステリーに求めたことは、それら名作の持つ論理的骨格を、江戸情緒の中で生かそうという明確な意志が働いていたからに違いない〉としている。
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